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東京高等裁判所 昭和45年(ラ)391号 決定

抗告人 降幡敬 外一名

相手方 松本信用金庫

主文

一  原決定を取消す。

二  長野地方裁判所松本支部昭和四〇年(ケ)第二七号不動産競売手続事件につき昭和四一年一一月四日付でなされた競売手続申立の取下は無効である。

三  長野地方裁判所松本支部昭和四〇年(ケ)第二七号競売手続を続行する。

四  本件手続費用は第一、二審を通じて相手方の負担とする。

(当裁判所の判断)

競落許可決定のなされた後、競売手続申立の取下をするには競落人及び競売手続の利害関係人全員の同意を要するところ、右利害関係人には、競売目的物件の所有者も含まれると解すべきである。

そして、右同意は、競売手続が迅速性、確実性を要する手続であり、取下は競売手続を終了せしめる行為であるからその同意も、原則として明示になされることが必要であり、例外的に黙示の同意によることも全く許されないとまではいえないにしても、それは、明示の同意と変らぬほど外部から同意の意思が確実に推測できる場合に限られるべきである。これを第二七号事件の取下についてみるに、原決定認定の事実は記録上認められるが、なお右事実から明示の同意と同視できる程抗告人らの同意の意思を確実に推測できるとはいえず、他にこれを認めるに足りる資料はない。蓋し、第二七号事件と第五七号事件が同一物件につき同一原因に基づく競売手続であり、法律上は後者は前者の取下を前提としてのみ違法になされるものであり、前者の取下につき異議があれば、後者の手続の進行に直に異議を唱えるべき筋合にあるとしても、逆に後者の手続に抗告人らが異議を述べなかつたことから直に同人らが右取下に同意したことが明白であるとまではいえない。

すると右取下には抗告人らの同意が欠けているので、無効というほかない。そして、右事件においてすでに競売手続は右取下により終了したとされているから、手続の明確を期するため右取下の無効を宣言した上、第二七号事件の競売手続の続行を命ずべきである。

(荒木 大和 田尾)

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